2010年2月25日木曜日

マストアイテム

野球好きならずとも、一度は『ニューエラ・キャップ』の名前くらいは聞いたことがあるだろう。



















                          

                                                 

1920年に誕生した同社は当初紳士向けの帽子を製造していたらしいが、1932年にはベースボールキャップの製造を開始、以来「品質第一」をモットーに、商品のクオリティの高さが評価され、徐々にシェアを広げていった。






その後ニューエラ社は契約チームを増やすだけでなく、1993年にはついにメジャーリーグの全球団のオンフィールド・オフィシャルキャップを独占的に製造する権利を獲得。ベースボールキャップ界において、その地位を不動のものにした。



























また同社の功績はそれだけでなく、ベースボールキャップを単なる野球ファンの”一応援グッズ”にとどまらせることなく、エッジの効いた”ファッションアイテム”にまで昇華させたことも特筆すべき点である。






中でもB-BOY(やB-GIRL)がカラフルなニューエラのベースボールキャップを、シールは張ったまま、つばをまっすぐにして、斜めに被って街を闊歩してる姿が最も印象的だと思う。


































若干ハナシが逸れるが、なぜB-BOYが、つばを曲げずに、またシールを貼ったままでキャップを被るか、ご存じだろうか?





理由は「新品だということをアピールするため」と言われている。







あえて”買ったままの状態”で、キャップのツバを曲げずに、シールを貼ったままで被ることが、フッドのB-BOYにとってはステイタスだったのだ。






俺のイケてるキャップは誰かのお古じゃねえぞ。と。






(少なくともB-BOYSのバイブル、『Black Music Review』誌には以前そう書いてあったと記憶している。)






























しかし、今となってはいろんな色や、迷彩柄、星条旗柄など、様々なカスタムキャップが流行っているが、これはいつごろ生まれたものだろう。。









































                         

                        

                                                 

キーマンは『マルコムX』や『Do The Right Thing』等の作品でおなじみの映画監督、スパイク・リーだった。

































1996年にヤンキースがワールドシリーズに進出したのを機に、大のヤンキースファンであるスパイクはニューエラ社のCEOクリス・クックに電話を入れ、ワールドシリーズの観戦時に自分が被る為に、特別に”赤いヤンキースのキャップ”を作ってほしいとリクエストしたのだ。






クックはチームやメジャーリーグと交渉を重ね、何とか権利関係をクリア、リクエストを実現したのだ。





試合当日、ヤンキースのダグアウトの真上で真っ赤なヤンキースのキャップを被って応援するスパイクの姿がテレビを通して数千万の人に目撃された。





























以降カスタムキャップという概念が生まれ、各チームも様々なデザインのアイテムを発表して行ったのだ。。。正にスパイクこそがカスタムキャップの生みの親と言えよう。





こんなことを書いてたら、僕も学生時代はよく赤いヤンキースのキャップ被ってたな、なんてことをふと思い出してしまった。






尚、都内だと渋谷の『FAMES』『On Sportz』で珍しいカスタムキャップをチェックできるし、マイナーリーグ等のマニアックなニューエラキャップが欲しければ、ご存じ『ベースマン」や、『セレクション』をお勧めしておく。






しかし、久々にいろんな店を見てみると、当時(約10年前)からは比べモノにならないくらい、商品の選択肢が増えたなと改めて驚いた。






今年は久々に新しいキャップでも買ってみようと思う。

2010年2月17日水曜日

野球進化論 (とりあえず最終回)

さて、前回「ビックボール(マネーボール)」か?「スモールボール」か?のところで止まったままだったが、我々日本人なら大方がスモールボールを支持するだろう。(以下、”ビックボール”と”マネーボール”は同義語としてハナシを進めていきたい。)


ビックボールを否定する人々の主張の一つに、”ビックボールは短期決戦に弱い”という意見がある。


例えば著書『マネーボール』の通り、成功を収めたと言われているアスレチックス(以下A’s)も、2000年から4年続けてプレーオフに進出したものの、いずれもディビジョンシリーズで早々に敗退しているし、2006年もリーグチャンピオンシップで敗れ、いずれもワールドシリーズまで駒を進めることが出来ないでいる。


レギュラーシーズンを圧倒的な勝率で乗り切ったにも関わらず、短期決戦のプレーオフでは力を発揮できずに敗退しているのだ。



一方、02年のエンゼルス、05年のホワイトソックスはバント、スチール等、機動力を駆使した「スモールボール」で見事ワールドチャンピオンまで上り詰め、また04年のレッドソックスでさえ、一見ビックボールに見えるチーム構成ながら、リーグチャンピオンシップでヤンキースに3連敗と土壇場に追い込まれた試合で、デーブ・ロバーツが伝説的な盗塁を決め、結局それがきっかけで決勝点を奪い、そのまま逆転4連勝で、そのまま一気にワールドチャンピオンまで突き進んだ。。。                               
                                                                        



                                
                               
06年、09年のとWBCで連覇を果たした日本代表の戦い方を見てもしかり、スモールボールは短期決戦に強い。と主張する意見もうなずける。



ただし、スモールボールを実践するためには当然、”少ない点を守り切るだけの投手力”が必要なわけで、WBC日本代表を見てると、改めて短期決戦における投手力の重要性をむしろ感じさせられた。



”動かない”ビックボールは、長打や、連打がハマれば大量点に結びつき、勝利に結びつくが、相手ピッチャーのレベルが上がれば上がるほど、それが困難になっていく。



ちなみに上記04年のレッドソックスのケースで相手ピッチャーはヤンキース・リベラだった。リベラから長打や連打を期待するよりも、何とかヒットか四球でランナーを出し、盗塁かバントで得点圏まで進め、タイムリーを1本期待するというほうが正攻法に思えるが、どうだろう。





また、高校野球などの学生野球において、選手個々の技量が低くなればなるほど、同じく長打や連打の可能性も少なくなっていく。だからこそ0、1死1塁では即バント、もしくはスチール、たまにエンドラン。という戦略が鉄則というか、なかば常識となっている。









                                
                        
小さい時から高校野球に馴染んできた僕らとしてはそれが当たり前の戦術と思って成長してきたが、一方で、小さいころからデカい当りを打つように教育されてきたアメリカ人や南米人には、なかなかその心理がわからないというのも、わからなくもない。




かつて1960年代から80年代にかけ、動かず、長打を狙う野球、すなわち今でいう「ビックボール」でオリオールズの一時代を築いた名将、アール・ウィ―バー監督の言葉を借りれば、「1点しか取りに行かなかったら、1点しか取れない」。






                                             
                                              
                                               
                                            
                                               
                                               
                                              
確かにその通りで、バントでランナーを得点圏に進めれば1点を取れる確率が増えるが、同時に2点以上取れる確率が減る。




さらに、みすみす相手にアウトカウントを献上したり、盗塁を試みて失敗というリスクを徹底的に排除しろと、主張しまくっているのが、マネーボール=ビックボール=セイバーメトリクスに共通した主張の最も核心的な部分なのである。




ただ、今となっては『マネーボール』が発売された当時の時代背景が、ビックボールの主張を後押ししたのではとも思うがどうだろう。





というのもまだステロイドに対しての認識が甘く、ファンもメディアも豪快な一発の魅力に取りつかれていたころ、チマチマしたバントやスチールを多用する”機動力野球”が、軽視されていたのも事実だと思う。    
                                                                            



                                      
                                      
                                       
                                     
   
                                       
                                     
近年ステロイドの使用が悪とされ、ホームラン協奏曲の幻想から目覚めたファンやメディアが、再びスモールボールに着目する中、、マネーボールの主張が果たして正しかったのか、再び議論されている。


当初は限られた予算でチーム作りを余儀なくされたA’sとビーンが選手の評価にセイバーメトリクスという新しい指標を取り入れ、一世を風靡した。



ただ、著書『マネーボール』の発売によって世界中に”それ”を知らしめてしまったことによって、結果的に潤沢な予算を持つチームが同じ方法でチーム編成をしたら、当然A’sよりもチーム力が勝ってくるわけで。。。今A’sとビーンはそんな窮地に立たされているのだと、評論する専門家もいる。


これがビーンにとって誤算だったのか、想定の範囲内だったのかは分からないが。


ただ結論としては、ビックボールが正解とか、スモールボールが正解とかいうコトよりも、ビーンがセイバーメトリクスに注目し、新たな選手の価値を測る指標を取り入れ、旧来と異なった視点からチーム作りを行った功績は誰も否定は出来ないものだと思う。


それがその後の球界に与えた影響の大きさと、様々な議論を巻き起こすキッカケを作ったこと自体が、あの本の最大の魅力だったのではとここでは結論付けたい。


あれ以来、メジャーリーグの球団幹部は、野球未経験で有名大学を卒業した数学や統計学に強い若者で多くを占め、旧態依然としていたスカウティングシステムや、球団の育成プログラムが次々に改革されていった。またセイバーメトリクスの観点から自チーム、相手チームを分析する部門が設置されることも今では当たり前となった。


ここ10年弱でセイバーメトリクス自体もさらなる進化を遂げ、今となってはこれまで難しいと言われてきた、守備や走塁も全て数値化し、あらゆる指標、データとして保存されている。



現状で言うと、若き天才GMの元、潤沢な資金とセイバーメトリクスを有効に活用し、ビックボールとスモールボールを硬軟織り交ぜ、メジャーリーグで最も成功しているチームの1つはボストン・レッドソックスだと言えるのではないだろうか。





                               
                               
尚、セイバーメトリクスの祖、ビル・ジェームスは今ではレッドソックスに就職し、球団のブレインとして働いている。



しかしあのおっさん、ちゃっかりしてるな。




、、、と、色々ハナシを展開してきたワケが、今シーズンは少々”野球のトレンド”というものを意識しながら観戦されるのも、悪くないかもしれない。



そのうち、野球未経験だけどやたらセイバー通の解説者とか、実際聞いたらウザそうだけど、そういうの出てきたら中継も面白くなるのに。なんて思うのだが、どうだろう。

2010年2月3日水曜日

野球進化論 (その5)

で、いよいよ名著(と絶賛された)『マネーボール』の登場である。











『マネーボール』に関しては既に皆さんご承知の通り、かなり端的にいうと、貧乏・弱小球団のオークランド・アスレチックス(以下A’s)が、新進気鋭の敏腕GMビリー・ビーンのもと、チーム再建に着手、限られた資金で選手を獲得し、強豪チームに立ち向かい、勝利を重ねていくというサクセスストーリーである。






もっと具体的に言うと、それまで球界関係者から「単なる野球オタクの戯言」と敬遠され続けてきたセイバーメトリクスを、初めて球団運営に実践したビリー・ビーンとA’sの快進撃を痛快に描いている作品である。一部野球ヲタの間でしか盛り上がっていなかったセイバーメトリクスが、ようやく市民権を得たのも『マネーボール』の功績によるものが大きいだろう。






ビリーは百数十年の間、何の疑問も持たずに野球界で支持されてきた旧来の指標、、、特に打率や打点の代わりに、出塁率や長打率という指標に着目し、先述したOPSやWHIPといったような新たな指標で選手を評価、獲得していった。






























一般的に打率.350で出塁率.400の選手と、打率.250で出塁率.400の選手では、一般的には前者の方が高給取りだったわけで、後者のような(例えばジミに四球を選び続けて出塁率/長打率が高い選手など)あまり注目されにくい”隠れた逸材”を掘り出し、それらの選手を安価で獲得し、彼らが活躍を続けていったことが、限られた予算で、A’sが勝利を重ねていくことができた要因だったと信じられている。































投手にしてみれば、これも一般的に高給取りの、勝利数をたくさん稼ぐ先発投手や、ハデな脱三振王などのスター選手にはあまり目を付けず、地味ながら被OPSが低く、WHIPの数値が優秀な投手に目を付け、そういった選手も安価で獲得していった。






また、作戦上、バントや盗塁を行わず、”指揮官の采配の妙”というファクターを一切排除したことも、セイバーメトリクス=マネーボールの大きな特徴として挙げられる。






これは同時に、”現場”ではなく、”フロント”がチームをコントロールするという、これまでとは違った球団運営の形態をも生み出した。






誤解されている方も多いかと思うが、セイバーメトリクス、ないしはマネーボールは、バントしない、走らない、エンドランもない、究極の「動かない野球」→「ビック(ベース)ボール」である。かなりザックリ言えば、粘って四球を選んで走者を溜め、長打で返す。というような感じ。






ちょうど『マネーボール』が発売された2003年当時、A’sは4年連続プレーオフ進出を果たし、アメリカンリーグ西地区の強豪として確かに君臨していた。






(ただ、あの当時は、バリー・ジト、マーク・マルダー、ティム・ハドソンという奇跡3本柱が偶然、同時期・同チームに揃っていた。ただそれだけのハナシ。という見方もあるが。。。)



































あれから6年がたった今、A’sは、06年を除く5シーズンでプレーオフ進出を逃し、特にここ3年は連続負け越し、昨年に至っては地区最下位に甘んじ、再び低迷期を迎えている。






一方で、WBCで連覇した日本代表や、05年にワールドチャンピオンに輝いたホワイトソックス、ココ数年快進撃を続けているエンゼルスのように、今、野球のトレンドは「機動力野球」→「スモール(ベース)ボール」に再び回帰し始めているのではないか、という意見も昨今は多い。


























一時はセイバーメトリクスが提唱する「ビックボール」が球界のトレンドとされていたが、今となってはセイバーメトリクス(ないしはマネーボール)の弊害を唱える論者も増えてきている。






「ビックボール」か、「スモールボール」か?の論争は、特に米国では宗教戦争に例えられるように、今日も各地でし烈な論争が繰り広げられているのだ。






だんだんハナシが逸れてきたが、そのうち戻るので、このまま続く。