第4位/リグリー・フィールド
- ホーム :シカゴ・カブス
- オープン:1914年
- デザイン:Zachary Taylor Davis
- 収容人数:41,009人
カブスとリグリー・フィールドについてユニークな点は多々あるが、最も感心するのは「球界の常識」にことごとく屈していないという点である。
「野球は太陽の下でやるものだ」というポリシーの元、21世紀に入ってもなお可能な限りデーゲーム開催にこだわり、球場内のスコア表示の類も極めてアナログ且つ最小限に留められているので、試合から少しでも目を離すとアウトカウントすら分からない状態に陥ってしまう。その為か、観客がラジオを聴きながら観戦している確率は全米でもココが最も多いんじゃないだろうか。
場内の座席は現代人の規格にはピッチが狭く、しかも1階席の半分から後ろはアッパーデッキが被って打球(特にフライ)を追えないし、屋根を支える柱があらゆる方向の視界を遮り、球場全体が一見とても不便で理にかなっていない構造となっている。
それでも昼間から多くの観客がスタンドを埋め尽くし、容赦なく敵を野次り、愛するカビー(Cabbie)を応援し、そしてうなだれるという作業をかれこれ100年近く続けている。特に90年代以降のカブス人気は凄まじく、観客動員率は毎試合ほぼ95%の水準で推移しており、チケット入手は困難を極める。
そもそも勝たないとお客さんが球場に来てくれないとか、ナイターじゃないと放映権が高く売れないとか、球場には娯楽施設を用意しなければいけないとか、マスコットが観客を煽らなければ盛り上がらないとか、いわゆる”今日のボールパーク”でまかり通っている常識がココには全く通用していない。球場が雰囲気を作るのではなく、観客が雰囲気を作っていくという究極の空間なのである。
いや、実際には来場した観客だけでは無い。「Wrigleyville(リグリービル)」と呼ばれている球場周辺地域には多くのスポーツバー、非公認のチームストア―やチケットブローカーのショップが軒を連ね、球場後方に隣接した一般民間住宅の屋上から観戦できる「Wrigley Rooftops」なる企画もチケット入手困難な程人気を博している(当初はモグリの企画だったが、現在は入場料収入の17%を球団に支払うことでオフィシャルエンドーサーとして認められている)。
街全体が球場の為に存在しているのか?球場が街の為に存在しているのか?恐らく両方なんだろうな。もはや野球の試合を行うハコという存在を超越し、地域住民の生活の中心であり、活力であり、生きがいなのだろうと思う。この年季の入った濃密な関係性はさすがのHOKでも再現できない世界感である。
本球場を設計したデービスさんは鉄骨球場の創生期に活躍したボールパーク設計の第一人者で、ホワイトソックスの元本拠地(1910~1990年)、「旧コミスキー・パーク」も彼の作品。
フェンウェイのイレギュラーな造形とは対照的で、リグリーはシンメトリーで優雅な佇まいが印象的。レンガ造りでセクシーな曲線を描くバックストップや、元オーナーのビル・ベックにより考案された深緑色のツタが絡んだ外野フェンスの美しさに思わずため息がこぼれてしまう。このご時世に場内の景観を優先し、場内の広告看板の類も極力排除されている点も見逃せない。
リグリーと言えばかつてチームアナウンサーのハリー・キャリーが放送席から身を乗り出して観客と合唱したセブンスイニングストレッチが有名だが、彼の死後は毎回ゲストを呼んでその代役を務める事になっている。
余談だが第40代アメリカ大統領のロナルド・レーガン(1911~2004年没)が俳優に転身する前にカブスのラジオアナウンサーを勤めていたことは有名で、後に大統領となってからのユーモアを交えた名演説の数々はこのキャリアで磨かれたものとされている。しかしながら93年という長寿を全うしたレーガンも、カブスがワールドチャンピオンに返り咲く姿を見届ける事は出来なかった。。
最後にカブスがワールドチャンピオンに輝いたのは1908年の事で、ワールドシリーズ出場ですら1945年を最後に遠のいている。ボストンで「バンビーノの呪い」を解いたセオ・エプスタインが昨年カブスの球団社長に抜擢され、いよいよシカゴで「ビリーゴートの呪い」を解くことが出来るか盛んに注目を浴びている。
しかしながら結果がどうであれ、リグリービルとその住民たちは今日も明日も愛すべき負け犬(Lovable Losers)と共にこの場所で生活し、歴史を刻んで行くのである。この100年間変わらずそうしてきたように。
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