2010年2月17日水曜日

野球進化論 (とりあえず最終回)

さて、前回「ビックボール(マネーボール)」か?「スモールボール」か?のところで止まったままだったが、我々日本人なら大方がスモールボールを支持するだろう。(以下、”ビックボール”と”マネーボール”は同義語としてハナシを進めていきたい。)


ビックボールを否定する人々の主張の一つに、”ビックボールは短期決戦に弱い”という意見がある。


例えば著書『マネーボール』の通り、成功を収めたと言われているアスレチックス(以下A’s)も、2000年から4年続けてプレーオフに進出したものの、いずれもディビジョンシリーズで早々に敗退しているし、2006年もリーグチャンピオンシップで敗れ、いずれもワールドシリーズまで駒を進めることが出来ないでいる。


レギュラーシーズンを圧倒的な勝率で乗り切ったにも関わらず、短期決戦のプレーオフでは力を発揮できずに敗退しているのだ。



一方、02年のエンゼルス、05年のホワイトソックスはバント、スチール等、機動力を駆使した「スモールボール」で見事ワールドチャンピオンまで上り詰め、また04年のレッドソックスでさえ、一見ビックボールに見えるチーム構成ながら、リーグチャンピオンシップでヤンキースに3連敗と土壇場に追い込まれた試合で、デーブ・ロバーツが伝説的な盗塁を決め、結局それがきっかけで決勝点を奪い、そのまま逆転4連勝で、そのまま一気にワールドチャンピオンまで突き進んだ。。。                               
                                                                        



                                
                               
06年、09年のとWBCで連覇を果たした日本代表の戦い方を見てもしかり、スモールボールは短期決戦に強い。と主張する意見もうなずける。



ただし、スモールボールを実践するためには当然、”少ない点を守り切るだけの投手力”が必要なわけで、WBC日本代表を見てると、改めて短期決戦における投手力の重要性をむしろ感じさせられた。



”動かない”ビックボールは、長打や、連打がハマれば大量点に結びつき、勝利に結びつくが、相手ピッチャーのレベルが上がれば上がるほど、それが困難になっていく。



ちなみに上記04年のレッドソックスのケースで相手ピッチャーはヤンキース・リベラだった。リベラから長打や連打を期待するよりも、何とかヒットか四球でランナーを出し、盗塁かバントで得点圏まで進め、タイムリーを1本期待するというほうが正攻法に思えるが、どうだろう。





また、高校野球などの学生野球において、選手個々の技量が低くなればなるほど、同じく長打や連打の可能性も少なくなっていく。だからこそ0、1死1塁では即バント、もしくはスチール、たまにエンドラン。という戦略が鉄則というか、なかば常識となっている。









                                
                        
小さい時から高校野球に馴染んできた僕らとしてはそれが当たり前の戦術と思って成長してきたが、一方で、小さいころからデカい当りを打つように教育されてきたアメリカ人や南米人には、なかなかその心理がわからないというのも、わからなくもない。




かつて1960年代から80年代にかけ、動かず、長打を狙う野球、すなわち今でいう「ビックボール」でオリオールズの一時代を築いた名将、アール・ウィ―バー監督の言葉を借りれば、「1点しか取りに行かなかったら、1点しか取れない」。






                                             
                                              
                                               
                                            
                                               
                                               
                                              
確かにその通りで、バントでランナーを得点圏に進めれば1点を取れる確率が増えるが、同時に2点以上取れる確率が減る。




さらに、みすみす相手にアウトカウントを献上したり、盗塁を試みて失敗というリスクを徹底的に排除しろと、主張しまくっているのが、マネーボール=ビックボール=セイバーメトリクスに共通した主張の最も核心的な部分なのである。




ただ、今となっては『マネーボール』が発売された当時の時代背景が、ビックボールの主張を後押ししたのではとも思うがどうだろう。





というのもまだステロイドに対しての認識が甘く、ファンもメディアも豪快な一発の魅力に取りつかれていたころ、チマチマしたバントやスチールを多用する”機動力野球”が、軽視されていたのも事実だと思う。    
                                                                            



                                      
                                      
                                       
                                     
   
                                       
                                     
近年ステロイドの使用が悪とされ、ホームラン協奏曲の幻想から目覚めたファンやメディアが、再びスモールボールに着目する中、、マネーボールの主張が果たして正しかったのか、再び議論されている。


当初は限られた予算でチーム作りを余儀なくされたA’sとビーンが選手の評価にセイバーメトリクスという新しい指標を取り入れ、一世を風靡した。



ただ、著書『マネーボール』の発売によって世界中に”それ”を知らしめてしまったことによって、結果的に潤沢な予算を持つチームが同じ方法でチーム編成をしたら、当然A’sよりもチーム力が勝ってくるわけで。。。今A’sとビーンはそんな窮地に立たされているのだと、評論する専門家もいる。


これがビーンにとって誤算だったのか、想定の範囲内だったのかは分からないが。


ただ結論としては、ビックボールが正解とか、スモールボールが正解とかいうコトよりも、ビーンがセイバーメトリクスに注目し、新たな選手の価値を測る指標を取り入れ、旧来と異なった視点からチーム作りを行った功績は誰も否定は出来ないものだと思う。


それがその後の球界に与えた影響の大きさと、様々な議論を巻き起こすキッカケを作ったこと自体が、あの本の最大の魅力だったのではとここでは結論付けたい。


あれ以来、メジャーリーグの球団幹部は、野球未経験で有名大学を卒業した数学や統計学に強い若者で多くを占め、旧態依然としていたスカウティングシステムや、球団の育成プログラムが次々に改革されていった。またセイバーメトリクスの観点から自チーム、相手チームを分析する部門が設置されることも今では当たり前となった。


ここ10年弱でセイバーメトリクス自体もさらなる進化を遂げ、今となってはこれまで難しいと言われてきた、守備や走塁も全て数値化し、あらゆる指標、データとして保存されている。



現状で言うと、若き天才GMの元、潤沢な資金とセイバーメトリクスを有効に活用し、ビックボールとスモールボールを硬軟織り交ぜ、メジャーリーグで最も成功しているチームの1つはボストン・レッドソックスだと言えるのではないだろうか。





                               
                               
尚、セイバーメトリクスの祖、ビル・ジェームスは今ではレッドソックスに就職し、球団のブレインとして働いている。



しかしあのおっさん、ちゃっかりしてるな。




、、、と、色々ハナシを展開してきたワケが、今シーズンは少々”野球のトレンド”というものを意識しながら観戦されるのも、悪くないかもしれない。



そのうち、野球未経験だけどやたらセイバー通の解説者とか、実際聞いたらウザそうだけど、そういうの出てきたら中継も面白くなるのに。なんて思うのだが、どうだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿