ダルビッシュが26日のタイガース戦に登板し、6回2/3を4失点で切り抜け、見事10勝目をあげた。日本人投手によるオールスター前の10勝達成は、2008年の松坂大輔以来であり、ダルビッシュはMLBルーキーイヤーを順調に過ごしているように見える。
しかしながらこれまでの戦いぶりを見ていると、レンジャースの強力味方打線にかなり助けられているな~という印象も見受けられる。この点については恐らく多くの野球ファンも共感する部分ではないだろうか。
そこで今回は様々なデータからダルビッシュの実際の投球内容を分析し、メジャーのライバル先発投手の中での位置付けを考えてみたいと思う。
※尚、本文中の日付は全て米国時間、成績は今日現在のもの、比較対象はアメリカンリーグ(以下AL)の先発投手とする。
① 勝利数:10勝(4敗)
今日現在10勝はALトップの数字だが、クオリティスタート(以下『QS』:勝敗に関らず、先発投手が6回3失点以内に抑えた試合=いわゆる「先発投手が試合を作った」という指標)の観点から分析すると、今季のダルビッシュは15先発の内、QSは約半分の8回しか記録していない。
通常QSを記録したにも関らず、味方打線の援護に恵まれず負けた場合は「Tough Loss(ツイてない負け)」、逆にQSを記録出来なかったにも関らず、味方打線や相手投手の乱調等に助けられて勝ってしまった場合は「Cheap Win(安っぽい勝ち)」と言われているが、ダルビッシュの場合10勝4敗のうち、「Tough Loss」が2回、「Cheap Win」が4回記録されている(デビューしたマリナーズ戦なんてまさに「Cheap Win」の筆頭格だよね)。
QS率については8/15で53%なので、往々にして味方打線に助けられているという印象は間違っていないと思う。ちなみにALの主要先発投手40人のうち、QS率53%は最低の数字である。にも関らず勝利数はリーグ1位なのである。
例えばジェイク・ピービ(CWS)や、ジャスティン・バーランダー(DET)は今季13回のQSを記録し、QS率も80%を超えている。にも関らず、勝利数がピービ6勝、バーランダー8勝止まりなのである。ちなみに黒田はダルビッシュと同じ15回の先発機会で9回のQSを記録している為、当然QS率も60%とダルビッシュよりも高いが、勝利数は7にとどまっている。
② 奪三振数:106個
バーランダー:113個、シャーザー:107個(共にDET)の2人に続き、堂々のリーグ3位である。この数字はCCサバシア(NYY)やキング・ヘルナンデス(SEA)をも上回っており、このままローテーションを守り続けて行けばシーズン200奪三振も射程圏内である。さらに奪三振率(K/9)に関して言えば、10.01とリーグ2位の高水準を記録している(要は9イニング投げれば10個三振取りますよということ)。
近年のセイバーメトリクスの世界で、奪三振率は非常に重要視されている指標であるが(最も簡単・確実にアウトを取れる方法だから)、同様に『K/BB』(四球1つあたり三振をいくつ奪えるかという数値)も重要視されている。いかに「四球を与えず三振を奪えるか」という課題は投手の”完成度の高さ”を裏付ける数値であり、この点同僚のルイスは7.50(1四球に対して7.5三振を奪う)という驚異的な数値を叩きだしている一方、ダルビッシュは1.96(1四球に対して約2三振を奪う)と、リーグ34位/40人中に甘んじている。現状は「三振を沢山取るけど、四球も沢山出す」という評価である。それもそのはずで、ダルビッシュの与四球数50は今日現在リーグワーストの数字である。
③ WHIP:1.38
続いては米国でポピュラーに使用されている投手の新・指標『WHIP』を取り上げたい。『WHIP』とは「Walks plus Hits per Inning Pitched」の略で、要は「1イニングに何人の打者を出塁させたか」という数字である。
リリーフと先発投手では基準が異なるが、先発投手の場合、おおよそ1.00を切ると超一流のエース、1.20でローテの2~3番手級、1.40を割ると問題児。というレベルである。ダルビッシュの場合、1.38とほぼ問題児の領域に達しており(毎回約1.4人を出塁させている計算)、AL全体でも下から2番目の成績である。
一方先述のピービ、バーランダーはいずれも1.00を切っており、ノーヒッターを達成したジェレッド・ウィ―バー(LAA)に関してはリーグトップの0.91を記録している。レンジャースの中ではこちらもコルビー・ルイスがチームトップの1.08を記録しており、さすがローテ1枚目の安定感と言わざるを得ない。
④ 被OPS:0.678
打者の能力を測る上で近年『OPS』(On-base plus Slugging: 出塁率+長打率)の重要性が唱えられている事は皆さん既にご承知の通りだが、コレを投手主体の数値『被OPS』として見た場合、ダルビッシュの0.678はリーグ12位の好数値である。
打者の能力をOPSで測る場合、0.900を超えると超一流スラッガー(余談だがベーブ・ルースの生涯通算OPSは1.164である)、0.800を超えると一流、0.700を超えると普通、逆に割り込むと平均以下となる。
つまり、今季ダルビッシュと対戦した打者はリーグ平均以下の数字(0.678)に抑え込まれているという事である。しかも、上記の通り今季のダルビッシュはリーグワーストの与四球数である。つまり四球で沢山出塁を許しているにもかかわらず、OPSがリーグ12位に留まっていると言う事は、いかに「打たれていないか」という事に繋がるのだ。事実ダルビッシュの被打率は0.228でリーグ8位、被長打率も0.348でリーグ10位、と共にリーグで10番目以内に「単打も長打も打たれにくい投手」であるという事が言える。
⑤ 総評
<ポイント1> 勝利数は見事だが、味方の強力打線に助けられている部分は否定できない。
<ポイント2> 奪三振数・率も見事だが、与四球の多さ、K/BBの悪さは他の一流ピッチャーと比較できるレベルでは無い。
<ポイント3> 与四球で自らの投球を苦しめているものの、リーグ屈指の「打たれにくい投手」であることが言える。与ホームラン数8もリーグ随一の高水準。
こんなことは毎回中継を見ていれば言うまでもない事なのだが、改めて細かく数字を追いかけて浮き彫りになった事実である。本投稿を通してダルビッシュの成績にケチを付けるつもりもないし、むしろ今年の僕は熱狂的な「ダルビッシュマニア」の一人であると考えている。しかしながら上記数字を見る限り、10勝4敗という好成績とは裏腹に、まだまだリーグを代表する他のエースピッチャーとは比較にならない内容であることが裏付けられた。
一方で、数時間の雨天中断後に再度登板を直訴したり、度々リリーフ投手陣を気遣う姿勢は『男気度』として上記数値に反映されない部分である。雨天中止の際には、相手先発投手だった(元レンジャース・エースの)CJウィルソンは中断後早々と降板したが、テキサスのファンやチームメイトがCJがチームから出て行って、代わりにダルビッシュが来てくれて本当に良かったと思った瞬間だったに違いない。
また、元来の投手としてのマウンド上での適応力の高さも去ることながら、あまり得意ではないと言われている英会話で積極的にチームメイトとコミュニケーションをとっている姿にも今後の成長、順応の可能性を大きく感じる。
現状では「期待通りの良い投手」というレベルだが、今後(来季とは言わず後半戦にでも)「与四球数」を改善するだけで、ウィークポイントとされている指標が劇的に改善され、ダルビッシュは名実ともに「球界を代表する投手」になりうるポテンシャルを十二分に秘めていると今更ながら結論付けたい。まだ25歳だしね。
このペースで行くと、僕がシーズン前に上げた「4つの指標」は軽々クリア出来そうな気配で、何かとイチャモン付けたい気分なので今回は筆を執ったまでである。
また、昨今のサイ・ヤング賞の査定には上記の指標が大きく影響してくる実績があるため、コアな野球ファンとしては”ウワベだけの数字”に踊らされない、「数字の裏側」を見抜く根性も供えておきたい所である。
1 件のコメント:
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