2012年10月23日火曜日

独断と偏見で選ぶボールパーク・ベスト10 『第7位』

第7位/ナショナルズ・パーク
 - ホーム :ワシントン・ナショナルズ
 - オープン:2008年
 - デザイン:HOK Sport (現Populous)
 - 収容人数:41,487人





そもそも球場の話しをする前に、涙なしには語れないワシントンDC(以下DC)の野球史について振り返ってみよう...


南北戦争以前の1850年代には既にホワイトハウスの職員連中が中心となって『ナショナル・ベースボール・クラブ』(現在のチーム名の由来となっている)なる団体が存在していたようだが、1891年にはプロリーグの発足を契機に『ワシントン・セネタース』というプロ球団が発足する。が、下記以降の負の歴史である。


●初代セネタース  →1891年発足、不人気の為1900年解散。
●2代目セネタース→1901年再発足、不人気の為1960年ミネソタに移転(今のツインズね)。
●3代目セネタース→1961年再々発足、不人気の為1972年テキサスに移転(今のレンジャースね)。


こうして3度も嫁はんに逃げられたDCは「野球人気が定着しない街」というレッテルを張られてしまう。米国では”ナショナルパスタイム”としての地位を確立してきたベースボールだが、その国の首都にメジャー球団が存在しない状況がこの後33年間も続いていく。


転機となったのは2004年オフ、モントリオール・エキスポズが人気低迷の為、球団をMLBに売却し、2005年シーズンよりDCへの移転が決定、新生『ワシントン・ナショナルズ』が誕生した。こういった経緯の中で、2008年に満を持して完成した新球場がこの『ナショナルズ・パーク』である。しかし、チームの不甲斐ない成績に客足は遠のき、新球場ブームは数ヶ月と持たなかった。


かくしてナショナルズは”球界のお荷物”と揶揄される事もあったが、この頃から着々とウェーバー制ドラフトの恩恵を受け、ストラスバーグやハーパーと言った有望株を次々と獲得していった。そして今シーズンのチームのブレイクは御承知の通り、移転以来初の地区優勝を決め、実に首都DCでは79年ぶりのポストシーズンゲームが開催されたのだ(悪夢のような最後だったけど)。


さて球場の話しに戻ろう。ココも例によってHOKの作品だが、球界に与えたインパクトは「エコ」と「脱・ネオクラシック」という2つのコンセプトにチャレンジした点にある。


球場の建築資材には5500トンもの産業廃棄物を再利用し、その他は輸送コストを抑えるため極力地元産の建材を使用。太陽光蓄電により照明に使用するエネルギーを20%削減、照明自体も省電力のものを採用した。フィールドの下には雨水の貯水技術を完備し、水の使用も年間30%削減させた。また、メトロやバスといった公共交通の利用を推奨し、自転車の駐輪場が充実している点もいかにも欧米らしい。


結果的に北米のプロリーグが使用するスタジアムとしては初めて、環境に配慮した建物に与えられる認証システムLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)を所得した施設となり、以降の大型スタジアム建設に大きな影響を与えた。


今まで米国の球場設計のコンセプト(立地選定やデザイン)は日本の20年先を行ってるなーと思ってたけど、ココの取り組みを見て30年以上の差が出来たなと痛感したわ。


球場デザインは白、グレー、ベージュを基調にまとめられ、非常にシンプルなイデタチ。まるで「オフィスビルのようで殺風景」という悪口を良く聞くが、個人的には乱発気味だった”ネオクラシック・スタイル”には正直飽き飽きしていたとこだし、ココのシックで大人な雰囲気の佇まいは逆に新鮮に感じた。座席はネイビーで統一され、チームカラーとのマッチングにも納得感がある。(しかし敢えて苦言を呈するなら、なぜフェンスもネイビーで統一しなかったのだろう。)


スコアボード類のレイアウトもさすがに熟練の感があり、昨今セイバーメトリクスの浸透から、データ・指標が大幅に増えた選手のスタッツや、アウトオブタウン関連の情報などがスッキリまとめられ、観客にとっては見やすくて優しい。


お薦めは右中間のスコアボード後方の「スコアボードウォーク」という巨大なスタンディングバー・スペース。試合前から生バンドのライブが入って、多くの若者で賑わっている。この辺りにNYのハンバーガーの有名店『SHAKE SHACK』(Citi Fieldに続いて2店舗目)が長蛇の列を独占しているので、冷やかしがてら食してみては。


1塁側のアッパーデッキからは連邦議会議事堂やワシントン記念塔が良く見え、プレーボール前のNational Anthemが、いつもよりちょっと特別な音色に聞こえるのは気のせいではないだろう。


合衆国の威厳と、未来への提案がギッシリ詰まった好球場なだけに、もう嫁はんには逃げられないようにと願うばかりである。

2012年10月14日日曜日

独断と偏見で選ぶボールパーク・ベスト10 『第8位』

第8位/エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイム
 - ホーム :ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム
 - オープン:1966年
 - デザイン:Noble W. Herzberg and Associates
 - 収容人数:45,957人





意外にもメジャー30球場の中で4番目に古い現役球場である(ア・リーグではボストンのフェンウェイ・パークに次いで2番目に古い)。


元々ドジャースタジアムで居候の身だったエンゼルスの為に、66年に専用球場として建設されたが、80年代にはNFLのラムズが流入してきてフットボール兼用スタジアムへ改築される不幸に見舞われた。


しかし97年にチームのオーナーシップがウォルト・ディズニー社に譲渡されるや状況が一変する。


エンターテインメント界の雄・ディズニーによる演出と、ボールパーク界の魔術師ことHOK社のノウハウが融合した大型リノベーションが実現し、辛気臭かった老いぼれスタジアムは、見事子供から大人まで楽しめるボールパークに生まれ変わった。


アメフト用に増築された左中間のスタンドは根こそぎ取り除かれ、代わりにビックサンダーマウンテンを連想させるような岩山を設置、普段は小川が流れ、エンゼルスのHR時には花火と噴水がブチ上がるシカケ。この岩山、表から見ると分かりにくいが、外野コンコースから背後に周るとアルファベットの「A」を型取られている事がしっかりと確認できる。


同じく左中間(現在の照明がある位置)に鎮座していた「ビックAサイン」が代わりに球場横のハイウェイ沿いに移転され、今もアナハイムのランドマークとして余生を送っている。


個人的には夏場の試合終了後に行われる花火大会がお薦め。球場の照明を全て落とし、左中間の岩山後方に上げる花火は他球場のソレとは比較にならないスケール感で圧倒される。さすがディズニー仕込みの演出と唸らずにはいられない。チームのホームページで試合スケジュールをチェックする際は「Fire Works」の注意書きを見落とさず、是非狙って観戦計画を立てて頂きたい。あ、あとココは三塁側がホームだから、座席に拘る人は気を付けて。


ディズニーは既にチームのオーナーシップからは退いてるものの、現オーナー、アルトゥーノ・モレノ氏(MLB史上ヒスパニック系初の球団オーナー)による地道なマーケティング活動が実り、見事2009年にはESPNによる「北米4大スポーツ全122チームの中でのベストフランチャイズ」の栄誉にも選ばれた。


「ボールパークとはどうあるべきか?」この辺の方向性の打ち出し方が非常に分かりやすくて、ほぼ同年代で年々老いていく雰囲気のドジャースタジアムよりも個人的には好き。


近隣にはディズニーランドはもちろん、ちょっと車を飛ばせばユニバーサルスタジオ、ナッツベリーファーム等のテーマパークには事欠かず、ニューポートビーチやハンティントンビーチ、大型ショッピングモールやアウトレットで買い物天国でもある。こんな”ザ・アメリカ”を満喫したい人にとって、ベストなロケーションと言えるだろう。


球場自体の完成度やクオリティーは昨今の新球場たちには到底かなわないかも知れないが、基本的な”ボールパーク”に必要とされるものは揃っている。


何よりLA特有のカラッとした空気、のどかな夕暮れの風景、熱狂的だが決して下品では無いファンが作りだす雰囲気が見事に融合し、球場全体をウェッサ~イな空気が包みこむ。何とも居心地のいい球場である。


まあ、ココがオレンジカウンティじゃなければランクインはしてないけどね!

2012年10月2日火曜日

独断と偏見で選ぶボールパーク・ベスト10 『第9位』

第9位/カウフマン・スタジアム
 - ホーム :カンザスシティ・ロイヤルズ
 - オープン:1973年
 - デザイン:Kivett and Myers
 - 収容人数:40,933人




「フットボール兼用スタジアム」建設ラッシュだった70年代において、しかもこの田舎街に、敢えて「野球専用球場」を建設した根性が単純にエラい。(NFLカンザスシティ・チーフスのホーム『アローヘッド・スタジアム』は球場と向かい合うように同じ敷地内に建設された。)


当時の流行で、開場当時は人工芝が敷き詰められていたが、96年に全面天然芝に貼り替えられ、この時点で”全米でも5つの指に入るクオリティーのボールパーク”との呼び声も高かった。


さらにカンザスシティは90年代以降一連の新球場建設ブームの火付け役となったHOK SPORT社(現POPULOUS社)がヘッドオフィスを構える地でもある。


ということで2009年からHOKによる大規模なリノベーションが施され、コンクリート造りで殺風景だった球場外観はガラス張りのクールな佇まいに生まれ変わり、おなじみの王冠型のビデオボードも世界最大級のLEDビジョンに取って替えられ、うす暗くて陰気くさかったコンコースも拡張されて明るくなった。


こうして少々クタビレ感のあった球場は見事「近代的ボールパーク」へと変貌を遂げ、めでたく30年ぶりに2012年度のオールスター開催地にも選ばれた。ほぼ同世代の「兼用スタジアム」が次々と姿を消していった中、「専用球場」を作った判断が後に生きた好例だと言えるだろう。


元々同市のシンボルでもある”噴水”が両外野上段スペースに施されていたが、リノベ後はレフト側にはクラブスペースが新設された為、ライト側のみ噴水が継承されている。特にナイター時にライトアップされた噴水は思わず見とれてしまう程美しいので、なかなかバカにできない。こういった遊び心のあるシカケを70年代に実現した点も大いに評価すべきだと思う。


皆さんはお忘れかと思うが、超鳴りもの入りでレッドソックスに入団した松坂大輔が公式戦デビューを果たしたのもこの球場。深夜に眠い目をこすってテレビ中継に釘づけになったのも今となってはいい思い出である。


少々話しはズレるが、カンザスシティはかつて二グロリーグの中心地としての役割を果たしており、特に地元チームの『カンザスシティ・モナークス』はドジャース入団前のジャッキー・ロビンソンや、伝説の2000勝投手、サチェル・ペイジらを擁し、リーグ屈指の実力・人気を誇っていた。


元々二グロリーグに関しては文献も多くないため、同市内にある全米唯一の『グロリーグ博物館』は必見である。(これも余談だが、モナークスで活躍していたロビンソンをドジャースにスカウトしたのは、あのジョージ・シスラーである)。


また博物館から数ブロック離れた場所には、かつてモナークスや、オークランドに移転する前のアスレチックスがホームにしていた『カンザスシティ・ミュニシパルスタジアム』の球場跡地が広がっており(今はただの野原だけど)、ココのベンチにしばらく腰掛け、往年のレジェンド達が躍動していた姿を瞑想し、思いにふけるのも良いだろう。(ここまで来ると相当の上級者か、頭おかしい人。)


かくして野球ファンとしての見識を広げるためには、めちゃくちゃ退屈な同地を訪れることも決してマイナスではないと思う。


カンザスシティには米国の地理重心、人口重心のほぼ中心に位置することから「Heart of America」というニックネームがあるが、ベースボールの過去と未来が共存するこの地には「Heart of Baseball」というニックネームさえ献上したいくらいである。