- ホーム :シアトル・マリナーズ
- オープン:1999年
- デザイン:NBBJ
- 収容人数:47,860人
時は1995年、マリナーズの選手たちはロッカールームでマイアミの住宅情報誌に夢中になっていた。チームの人気低迷に輪をかけて、本拠地キングドームの老朽化が進み、シアトルの街に新球場が建設される見込みが無ければ、球団のフロリダ移転がいよいよ現実味を帯びていたからだ。
しかしながら、新球場の建設費の一部は市民への増税により賄われなければならず、世論を味方に付ける為にも、チームの奮起がこの時ほど望まれていた事は無かった。
このシーズンのマリナーズは一時首位エンゼルスから13ゲーム離されていたものの、シーズン終盤に奇跡の大逆転劇を演じ、球団史上初の地区優勝・プレーオフ進出を果たしたのだ。
特にディビジョンシリーズでヤンキース相手に2勝2敗で並んだ最終第5戦、延長11回裏にエドガー・マルティネスがレフト線に放ったタイムリーツーベースヒットは、「The Double」と呼ばれており、サヨナラのホームに滑り込んだまま、チームメイトに揉みくちゃにされた若き日のケン・グリフィー・ジュニアの弾ける笑顔と共に、今でもシアトルのベースボールファンの胸に強烈に焼き付いている。
結果的にこの年、マリナーズはリーグチャンピオンシップシリーズで敗退したものの、この活躍がきっかけとなり新球場建設へ大きなウネりとなっていった。球団社長のアームストロングの言葉を借りれば、ベーブルースがヤンキー・スタジアムを建てたのなら、セーフコ・フィールドを建てたのはケン・グリフィー・ジュニアなのである。
こうして世紀の爆破解体ショーによって消滅した先代のキングドームの南側に、新球場セーフコ・フィールドは世界2番目の「開閉式天然芝球場」として誕生した。
世界中にいくつか存在する他の開閉式球場は、「ドーム(天井)が開く」という感覚だが、ココの場合は「屋外球場に屋根が被さる」といった表現の方が的確である。屋根は晴天時には球場後方の「BNSF鉄道」のレールの上に被せられており、悪天候時にのみ屋根がスライドしてフィールド上に被さる仕組みになっている。
試合中継中にバオ~ンという汽笛が鳴り響くのがお馴染みだが、あれはこの線路を行き来する貨物列車の合図なのである。
ココも例によってレンガと鉄骨を組み合わせたエクステリアや、敢えて手動式のスコアボードを採用するなど、当時の流行『ネオクラシック・スタイル』を地で行くコンセプトとなっているが、意外にもHOKの作品では無い。
スタンドは1階、2階、スイートレベル、3階とシアトルのマーケット規模感から言ったら少々大き目に感じるが、開場当時は年間350万人以上集客するメジャー屈指の人気球場だった。が、近年はチームの低迷と共に観客動員も200万人そこそこと低迷を強いられている。
スイートレベルのど真ん中に鎮座する”オーナーズスイート”の壁には山内溥オーナーの肖像写真が飾られているが、ご本人は一度も球場に足を運んだことは無いそうだ。
さて、シアトルといえばコーヒーが有名だが、実はマイクロブリュワリーの宝庫でもある。球場内でも『Mack & Jack』、『Red Hook』、『Fat Tire』といった地元産ビールをドラフトで楽しめるカウンターがあるので、ここはありふれたバドやクアーズではなく、レアなブランドを手に観戦されたい。
ツマミにはコンコース内売店『Grounders』の "World Famous" Garlic Friesが最適である。ガーリックと油でギトギトまみれたフレンチフライがついついビールを進めてしまうので要注意。また、ダウンタウンにあるクラムチャウダーの老舗『Ivar's』も球場内に出店しており、春先、秋口の肌寒い日には特にお薦め。
個人的には目をつぶっても歩けるくらい通い詰めた球場だけあって、正直6位と言うポジションに友情票は否めないが、シアトルの街や人々同様に非常にフレンドリーで居心地の良い空間であることは間違いない。
3塁側2階席後方にはテラスでくつろげるオープンスペースが広がっているが、そこから望むシアトルダウンタウンのスカイライン越しに沈む夕日の美しさは特筆。エリオット湾から微かに薫ってくる潮風も手伝って実にさわやかな気持ちになれるのだ。
ご存じの通りチームは10年以上の間低迷期に入っているが、願わくば開場当時の大熱狂をいつかまたココで経験してみたいものである。その時には多少のベテランファンとなった自分が感慨にふけることが出来るのではと、淡い夢があるのである。
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