2009年8月31日月曜日

金の卵たち (その3)

さて、ストラスバーグの話題で終わりかけたメジャーのドラフトについて、もう少しだけハナシをしていこう。



現状、メジャーリーグのドラフト対象となるのは、アメリカ、カナダ、プエルトリコの大学生、高校生、独立リーグでプレーしているアマチュアプレーヤーが対象となる。



従い、現在メジャーリーガーの一大勢力となっているドミニカや、ヴェネズエラ出身の選手は”正規の”ドラフトからは対象外となっている。



各チームとも独自に作ったアカデミーや(広島東洋カープもしかり)、独自のスカウティングのネットワークを中南米に張り巡らせ、将来有望な若者と都度個別の契約を獲っていくわけである。


ドミニカにはチームの公認・非公認含め、およそ6,000もの私設ベースボールアカデミーがあると言われており、ひとたびメジャーのスカウトの目に止まれば、有能な若者と代理人は一攫千金のチャンスとなるわけである。




しかしながら、国民の平均年収が日本円にしておよそ25万円程度と言われているドミニカでは、チームからの契約金(およびその仲介手数料)目当てに暗躍する人々を巡るトラブルが近年大きな問題となっている。



一方で、チームのスカウトも契約金の一部をポケットに入れてしまったり、逆に契約した選手からキックバックを要求したりという、悪質な横領事件が立て続けにあった。



「契約してやるから関係者みんなで潤おうぜ」




みたいなテンションだろう。




あまり日本では報じられていないが、昨年同様の事件がヤンキース、レッドソックス等名門チーム含み、関係者の一斉摘発&処分があった。




聞いた中では、例えばスカウト部長が子分のスカウトに、選手のスカウティングレポートを過大に評価するよう命令し、チームから選手に支払われる契約金の、水増しされた部分をフトコロに入れてしまう。



なんて手口もあったらしい。



一方選手も必死で、いかに速い球、遠くに飛ばす力をスカウトに認めてもらえるかが勝負なワケで、ドミニカの国内リーグや、アカデミーではステロイドの使用が日常化しているとの話も聞く。

メジャーリーグで、2005年以降行われた薬物検査に違反した選手のうち、およそ60%がドミニカ出身者というデータもある。




最近世間を賑わせている、マニー・ラミレス、A-Rod、オルティスなんかを見てると、若い頃に手にした薬物を止められずに、年々増す契約金や年棒のプレッシャーに耐えられず、、、という図式が当てはまってしまう。(事実かどうかは別問題だが、本人の口からもそういう類のコメントは過去にあった。)





また、年齢のサバ読みも横行しており、ソリアーノ、テハダ、ゲレーロと言ったスーパースター達も年齢詐称を気付かれずに、何年もメジャーリーグでプレーしていた事実が最近発覚したことは、皆さんも記憶に新しいだろう。






同じ才能の選手が2人いれば若い方を獲ることは当たり前なわけで、戸籍制度がイマイチあいまいな中南米では戸籍の売買や、年齢詐称もさほど難しくないと聞く。




デビュー以来”クリーン”なイメージで打ちまくっているプホールズも、近年は年齢詐称やステロイドの使用が疑われているという由々しき事態にまで発展している。






僕はプホールズはそのようなこととは無縁であると心から願っているし、彼の才能に嫉妬している外野のたわごとだと聞き流しているが。。。




もちろん、ドミニカ出身の選手が全て薬物に手を出し、年齢を詐称し、仲介する代理人も全て悪質だということではない。アメリカでの成功を夢見て、必死に白球を追いかけている少年や若者が大多数だと思う。



ただ、やれ「薬物は違反だ」とか、「年齢はゴマかしちゃいかん」、と道徳を説いたところで、問題の根本が”貧困”にある限り、養うべき家族や親族からの期待と重圧に負けてしまい、ひとたび契約金を手にするために手段を選ばない若者も後を絶たないという事実がある。



前に黒人メジャーリーガーの減少について話したことがあるが、現在メジャーで圧倒的な存在感を見せるドミニカ勢と、その金の卵たちが抱える問題についても、みなさんに理解を深めて頂きたい。


次回以降はお坂東さんと、モーガン・フリーマンさんが渡米される前に、エンジェルスとアナハイムについてハナシを進めて行きたいと思う。

2009年8月24日月曜日

金の卵たち (その2)

何故か毎年登場する「10年に一度の逸材」という触れ込みを越えて、「史上最高」と呼び声が高いスティーブン・ストラスバーグが、ワシントン・ナショナルズから1巡目1位(全体1位)の指名を受けた後、先週”文字通り”ルーキー史上最高額で契約したというNewsは日本でも多少話題になった。




代理人は悪名高き、あのスコット・ボラスであるが、当初5,000万ドルを要求していたとウワサもあったが、結局は1,500万ドル程度で落ち着いた。




尚、これまでのルーキーの契約金最高額はマーク・プライアーの1,050万ドル、その次はヤンキースで活躍中のマーク・テシアラの950万ドル。



(ご存知テシアラは期待に応えて成長を続けているが、プライアーはカブス入団直後にブレイクしたものの、一発屋で終わりそうである。)



以前にも何度か触れたが、メジャーリーグのドラフトって、抽選とか、逆指名とか無く、完全ウェーバー制のため、前年度下位のチームから指名権があるため、低迷を続けるナショナルズに権利があった。
(尚、次に指名権を持っていたのがマリナーズ。)



ところが最近、大学生や高校生も代理人をつけて球団と契約交渉するもんだから、ボラスのような法外に高い契約金を要求する選手が多発して、問題になったりもしてるのだ。



契約金出せないんだったら、(高校生の場合は)大学に進学するか、来年まで待って、カネの有るチームからの指名を待つからいいよ、見たいな感じで、トッププロスペクト(金の卵)は、らつ腕代理人から知恵を与えられ、かなり強気な態度をとっている。



基本メジャーにはルーキーの契約金に関する規定が無い為、どんどん金額がつり上がってしまっている。



そうなると、下位のチームってのは基本カネが無くて、低迷してるのだから、折角指名権があるのに、獲りたい金の卵の代理人がボラス(もしくはその類の代理人)だったりすると、法外な契約金要求されるから、じゃあ指名見送ろう見たいなケースが頻発しているのだ。



つまり、本来戦力の均衡化を目的にウェーバーにしているのに、結果的に資金力の有るチームが良い選手を取れる、みたいな矛盾が起きてしまっている。



それだけに、今回カネの無いナショナルズが、史上最高の契約金を払ってストラスバーグを獲得したことは、球団の威信、存続、をかけて望んだ交渉だったと言えよう。



いくらカネが無いからといって、交渉が決裂してストラスバーグの獲得を見送れば、ファンの失望は計り知れないほど大きなものになってしまう恐れがあったハズ。



一方で、いったん大枚をはたいて契約したら、ファンは勝手に1年目からメジャー昇格、ローテ入り、オールスター選出、17、8勝くらい、、、は当たり前みたいな夢見ちゃってるかもしれない。(冷静に考えるとメジャーに上がるだけでも大変なことなのに。)



メジャーのドラフトだと、1チーム50巡目(50人)まで指名するため、30チームで、毎年約1,500人のルーキーが誕生する。


その中でも”1巡目1位”の栄誉に輝く選手は1年に1人だけ。


そこからスターに上り詰めた、ケン・グリフィーJr.、チッパー・ジョーンズ、A-ロッド、ジョー・マウアー(イチローと首位打者争い中)などいる一方で、期待に応えられずユニフォームを脱いでいった選手も多い。





ちなみにストラスバーグは高校を卒業した3年前にもドラフトに掛かるチャンスはあったが、例によって約1,500人が指名されたドラフトで、どのチームも彼を指名することは無かった。


それはおろか、大学進学時に奨学金を提示したのも、彼の出身校である、サンディエゴ州立大学のみであった。




尚、同校の野球部監督は、あの殿堂入り安打製造機、トニー・グウィンであり、恩師のグウィンいわく、入学したてのストラスバーグは「ただの肥満児のでくの坊」だったらしい。そこから3年間で、ダイエットと練習を重ね、164キロ右腕まで成長した。と、彼は雑誌のインタビューで回想していた。




しかし、ただの肥満児のでくの坊がダイエットしただけで164キロ投げられるとは思わないが。。。さすが殿堂入り選手の言葉は違う。



まあ、いずれにしろ、今大きな変革を迎えているアメリカという国、奇しくも首都ワシントンで、オバマと同様に、明るい将来を期待されているハタチそこそこの若者から目が離せない。



今はただYou Tubeに投稿されているストラスバーグの粗い画像を目を凝らして覗くしか、彼の実力を垣間見る術はないが。。。とりあえずスライダーがウネリまくっている。



金の卵たち (その1)

気付けば久々の更新となってしまった。


8月って結構ヒマなはずなのだが、なんだかんだ忙しい日々がしばらく続いていた。



とは言っても野球は結構見てたけど。


今日、夏の甲子園は中京大中京の優勝で幕を閉じたワケだが、今回は近畿や関東の有力校が早めに姿を消し、野球不毛の地と言われる東北や北陸の学校の健闘が目立った。
また先日の『Number』でも、近年の公立校の衰退が取り上げられていたが、今年は岐阜商業も頑張りもあり、勇気付けられたオールドファンも多かったのではと思う。


しかし今の子はみんな球が速いけど、あれ、スピードガンあってるのかな。


よく色んな人に言われるけど、昔は140キロ出たら速球派って言われてたのが、今じゃ140キロ台って普通で、150キロ以上出ないと速球派って呼ばれないもんね。


しかも140キロ中盤から後半の球投げても、甘いところいけばバッターは次々打ち返すし、アレ見たアメリカ人はレベルの高さに相当ビックリすると思うけど。どうなんだろう。


そんな中、圧倒的に話題を振りまき続けたのは花巻東の菊池雄星。


球速だけが取り上げられるが、バランスが良くて柔らかく、のびやかな投球フォームは球速以上に素材の良さを感じさせる。



最後はケガで投げきれず、本人は無念だったと思うが、球団関係者は菊池がボロボロにならずに良かったと胸をなでおろしてるのではないだろうか。


かつて”超高校級左腕”として鳴らした、レレレのおじさん小野や、ビックマウス川口の二の舞にならぬよう、順調に成長して頂きたい。(そういや辻内は元気だろうか?)


今メジャーリーグって、サバシア、レスター、カズミア、ハメルズ、クリフ・リー等々、若くて勢いのあるサウスポーが多いけど、日本人の大型サウスポーってしばらくいないよね。だからこそ余計に期待するのだが。



すでに1位指名の競合球団が8とか11とか言われてるけど、どこに行くのだろう。渡米の可能性はあるのだろうか。


しかし早々に本田・長野の1位指名を約束してしまった巨人は寂しく蚊帳の外だな。長野ってそんないいの?



既に長野が競合するような逸材でないんだったら、菊池を1位で、2位で獲ればいいのにとか思うけど。どうなの。


去年の田澤の例を見て、日本から即アメリカってのもどうなの?って懐疑的だったけど、週末の田澤のピッチング見てたら、アレ結構いいね。



ルーキーイヤーでポッとメジャー昇格したからといって、中々すぐには勝てないと思うけど。やっぱ騒がれてただけあって、良いピッチャーなのかね。


本来ならまだまだマイナーで修行中の身だっただろうに、松坂がダメで、スモルツもクビになっちゃったりして巡ってきたチャンスで、勝負強し。あとは今後研究されて落ちる球を見極められた時の我慢だろうか。



話しがソレまくったが、日本では菊池一人が話題を独占しているアマチュア球界だが、アメリカでは”大学生164キロ右腕”こと、スティーブン・ストラスバーグのルーキー史上最高額でのナショナルズ入団が話題を振りまいている。



長くなったのでその辺のハナシはまた次回。。。

2009年8月6日木曜日

国宝的野球場

外壁に絡まったツタを一度外し、レンガと鉄骨が覆う外壁は、まさにハヤリの”ネオクラシック調”ボールパークを意識したものだろう。





















そのうちツタも復活し、さらに独特の雰囲気をかもし出すに違いない。




リニューアル工事の計画が発表された当時、”アジア初”と意気込んでいたLEDリボンボードの設置は、あっさりKスタや千葉マリンに抜きさられ、もの珍しささえなくなってしまったものの、なかなかの出来栄えであった。





















架け替えられた名物の銀傘(ギンサン)はソーラー発電するという、時代を意識したシロモノ。





















観客席のど真ん中で視界を遮りまくっていた、銀傘や、照明塔の無駄な鉄骨の柱は極限まで座席後部まで追いやられ、観戦時のストレスはかなり軽減されるハズである。




さらにファールゾーンが巨大すぎたため、ファールフライがやたら多くてシラけるシーンも、幾分解消されるだろう。リニューアルにより観客席が以前より若干せり出している。




近年の野球場はスタンドを”多層式”にし、1層1層を上下に重ね合わせ、観客席とフィールドの距離を近く保とうという工夫がされているのだが、




しかしココは相変わらずフィールドを取り囲む観客席は”1層式”で、特にアルプススタンドと外野席の迫力は、今後現れるであろう球場では再現不可能である。






















恐らく外野席の奥行きは東京ドームを初めとする近代球場の2倍はあり、物理的に言ったらフィールドは果てしなく遠く感じるはずである。




にもかかわらず、ココは外野席からチケットが完売するのだから、ファンにとってはそんなことあんまり関係ないのだろう。




実は今年の3月のセンバツ時にも、リニューアルが完成したばかりの甲子園球場をひょっこり訪れていたのだが、やはり巨人戦ともなると客のテンションは異常に高く、高校野球とはまったく別の表情を見せる。




















外野席はさすがにコワいから、1塁側のアルプスに陣取ったが、テンションの高さはあまり変わらず、ファンは思い思いのユニフォームに身を包み、施設応援団のトランペットに合わせ、皆懸命に応援し続ける。




やはり名物は7回のジェット風船だが(実は発祥は広島)、夜空に吹き上がる風船を下から見上げた光景は圧巻である。





































豚フルの影響で、衛生上の問題から一時中断されていたが、やっぱこうじゃなくっちゃ。




































ニューヨークやシカゴの熱狂的なベースボールファンに是非見せてやりたい。



日本の夏にはこれが似合うのだと。。。



逆に某G球団が流す、『Take Me Out To The Ball Game』の替え歌だけはマヌケ過ぎて聞かせられないな。



キレイにはなったものの、相変わらず狭いコンコースや、座席には不満が残るし、全体的に付け焼刃的なリノベーションだったのではとも思った。



しかし日本中見回しても、”世界基準”で戦える球場はココだけだろうと改めて感じたし、折角リニューアルしたのだから、今後も孫の代まで活躍して頂きたい。




どうもアメリカ人からしてみたら、「日本を代表する野球場といえば東京ドーム」という印象があるのだろうが、僕は甲子園の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい。




かつてココを訪れたベーブ・ルースが「デカい・・・」と絶句したように、日本にもこれだけスケールの大きい野球場があるのだ。




(日米野球なんかもイベント主催側がリスクヘッジするために、どうしても雨天中止がない、ナゴヤ、大阪、福岡等のドーム球場が使用されてしまう。)



最後になったが、今回大変お世話になった、さかなクンの愛娘をアップしておこう。





















可愛い。



そして目元がお父さんにソックリである。

2009年8月3日月曜日

甲子園が揺れた夏。

大阪からの帰り道、新幹線のホームでふらっと立ち寄ったキオスクで、思わずこのタイトルが目に飛び込んできた。



出発直前、携帯で通話中ながら、思わず”ジャケ買い”してしまった。






内容は平成に入ってからの20年分の、選手権大会のレビューと各大会の寸評、主力選手、エピソードがぎっしり詰まった、まさに永久保存版。各大会の想い出が走馬灯のように甦る・・・といったら大げさだろうか。



いずれにしろ、一家に一冊、見つけたら即購入していただきたい。



さらに『Number』ならではの視点で、現在高校野球が抱える問題点を、鋭くあぶり出している点もオモロイ。



やまびこ打線で一世を風靡した池田高校の繁栄と衰退に見る、公立校と私立校の勢力図の変化。



近年注目を集める、沖縄の高校への期待と課題。



松坂がリラックスして語っている”あの夏”の裏舞台。



高校野球史上最大の事件、松井5打席連続敬遠に隠された、関係者それぞれの苦悩。。。



どれも視点が多角的で、読みごたえあり、唸らされた。



開幕まで一週間を切った今年の夏は、どんなモノガタリが生まれるのか、長島三奈の言葉を借りれば、「思いっきり笑い、思いっきり泣く」球児たちから目が離せない。


必読。