2010年1月26日火曜日

野球進化論 (その4)

では、投手の場合はどうか。




打者がOPSで評価されるのであれば、当然「被OPS」の低い投手が評価されるわけである。




ちなみに、




被打率.325 /被出塁率.401 /被長打率.534 /OPS.935




これは2009年の松坂の成績であり、この数字を見る限り、昨年松坂と対戦した打者が”総じてオールスター級”の力を発揮したことになる。




いかに彼が不調だったかを物語っている数字である。




























さてここで、従来までの投手の能力を測る指標を再考しよう。




とりわけ「勝敗」や「防御率」に関しては、リリーフピッチャーの出来や、味方打線の援護の有無等、なかなか投手の自己責任の部分が見えにくい記録となっていた





そこで提案されたのが「WHIP」という指標である。(WHIPとは”Walks plus Hits per Inning Pitched” の略。)





つまり、1イニングに何個、四球and / orヒットを許したか→『投手の自己責任において出塁を許した数』を問うものである。





近年米国において「WHIP」は、勝敗、防御率と共に投手指標の”新御三家”として認知されている。「防御率」が投球の”結果”を表しているのに対し、「WHIP」は投球の”内容”を表す指標になっているのだ。




じゃあどれくらいだったらすごいのかという基準だが、およそ、




先発投手の場合は


1.4を下回ったら一流


1.2を下回ったらオールスター級

1.0を下回ったら球界を代表する先発投手




救援投手の場合は


1.2を下回ったら一流


1.0を下回ったらオールスター級


0.8を下回ったら球界を代表する救援投手






ということになる。





尚、2009年のメジャーリーグ全体の平均値は 1.390なので、およそメジャーの投手は1イニングに1.4人の出塁を許している(エラー、死球を除き)ということになる。





2009年 先発投手ベスト3


 1. ダン・ヘイレン(ダイアモンドバックス) 1.003
 2. クリス・カーペンター(カージナルス)  1.007
 3. ザック・グリンキー(ロイヤルズ)    1.073 























2009年 救援投手ベスト3


 1. ダン・ウィーラー(レイズ)       0.867

 2. アンドルー・ベイリー(アスレチックス) 0.876
 3. マリアーノ・リベラ(ヤンキース)    0.905



尚、歴代のシーズンベストは2000年、全盛期のペドロ・マルチネスが記録しているが、先発投手としては驚異の0.737である。




ペドロに関しては17年に及ぶキャリア通算WHIPも、1.05と驚異的で、いかに打たれにくく、かつ四球を出さない投手であったかが、お分かり頂けるだろう。































WHIPの測定に際して、投手の責任ではないエラーは記録に含まれないが、死球(デットボール)もまた投手の責任として問われないのはなぜか。


メジャーの場合死球は、打者や相手チームへの報復として投じられるケースが多いため、必ずしも投手の責任ではないと認知されている。と個人的に推測するのだが、真意はどうだろう。





またWHIPとは異なる指標だが、最近先発投手の成績を計る指標の一つにQSQuality Start/クオリティスタート)があげられる。これは非常に簡単で、先発投手が6イニングを投げ切り、自責点3以内に抑えた場合、QSが記録される。





まあ、客観的に先発投手は63自責点以内が、”試合を作った”と評価されるというラインということだろう。





QSを記録したにもかかわらず、打線の援護がない、もしくは救援投手陣が撃ち込まれて勝ち星を逃すことをTough Loss(不運な負け)といい、逆にQSを記録できなかったにもかかわらず、タナボタ勝利を手にした場合はCheap Win(安っぽい勝ち)と言われる。





QSは先発投手のみに与えられる評価指標だが、最近は日本でも契約更改の際に、思うように勝ち星が伸びなかった先発投手がQSを主張する場合もあるので、注目されたい。





ちょいもー続く。。。

2010年1月19日火曜日

野球進化論 (その3)

打力や投手力を計る上で、打率、打点、本塁打、勝敗、防御率といった、いわゆる”旧来の指標”がアテにならないと考えた、セイバーメトリクスの祖、ビル・ジェームスらは、「OPS」や「WHIP」という新たな指標を提案した。(ちなみにこのおっさんがジェームス)























今となっては「OPS」や「WHIP」という指標はメジャーリーグでもタイトルの一つとして認められているし、もはやセイバーメトリクスという概念を超えて、米国では”一般常識化”している指標である。





故に実際球場で観戦したり、TVで野球中継を見ていても普通に飛び交うこの数値を理解できないと、話しについていけなくなるのだ。





まずは「OPS」から説明しよう。




OPS On Base Percentage Plus Slugging Percentage、つまり単純に「出塁率+長打率」を表した数字である。





そもそもなぜOPSが一般に認知され、支持されているかというと、簡単に計算できる打力を計る指標の中で、最も信頼性が高いとされているから。




























                               

                              

なぜ信頼性が高いかというと、「得点」に対して非常に高い相関性が存在することが立証されているからである。





つまりOPSが高い打者=得点産生能力に優れている。ということになるのだ。





ここに00年~04年までのMLB全体の「チーム打撃成績と、チーム総得点の相関係数を調べた結果」がある。





<打撃部門の指標 / 相関係数>


 四球数 / 0.590

 本塁打数 / 0.719

 打率 / 0.849

 出塁率 / 0.910

 長打率 / 0.913

 OPS / 0.955

 産生得点(RC/ 0.964





本塁打数や打率に対し、出塁率や長打率といった指標の方が、得点に対しての相関係数が高いことがお判り頂けるだろう。さらに出塁率と長打率を合計したOPSは、さらに相関係数が高くなる。





そこで、旧来の打撃タイトル御三家、打率、打点、本塁打の代わりに、新打撃タイトル御三家として、打率、出塁率、長打率が並べられるケースが近年増えてきた。そして前述の通り、出塁率と長打率をそのまま足したものがOPSというわけである。                         

                                                  




じゃあOPSがどれぐらいだとすごいのか、という基準だが、およそ、




8割を超えたら一流、 


9割を超えたらオールスター級、


10割を超えたら球界を代表する選手。




て感じ。





ちなみに09年のMLBの平均OPS750厘である。





同じく09年のトップ3は、(数字は打率/出塁率/長打率の順)



1位: アルバート・プホールズ .327/.443/.658 →OPS 1.101

2位: ジョー・マウアー    .365/.444/.587 →OPS 1.031

3位: プリンス・フィールダー .299/.412/.602 →OPS 1.014




となっている。





いずれもそうそうたる顔触れの驚異的な数字だが、ベーブ・ルースに至っては生涯通算のOPS1.164に達しているし、04年のバリー・ボンズは1シーズンの最高記録となる驚愕の1.422を記録している。


























一方で、下記の2選手の昨シーズンの記録を見てみよう。




選手A) .352/.386/.465 →OPS .851はア・リーグ29位)

選手B) .274/.367/.509 →OPS .876はア・リーグ18位)



勘の鋭い皆さんなら既にお気づきだろうが、Aがイチロー、Bが松井の成績である。





打率が高いイチローだが、思いのほか出塁率と長打率が伸びず、OPSは平凡な数字に終わっている。(四球が少ないと批判されるのは、この辺りに事情がある。)





一方松井は平凡な打率だが、OPSでは健闘していると言えよう。




ただ、OPSは”走力”や”守備力”が加味されていない指標ではあるので、一概に選手のトータルな評価に直結するわけではないということも留意されたい。





続く。。。

2010年1月13日水曜日

野球進化論 (その2)

野球ほど数字や記録が多岐にわたるスポーツは他に無いだろう。                      

                                                  

そのルーツを遡ると、1900年代に入る前には既にスコアブックが存在し、さまざまな記録の概念も確立されていたと言われている。                                    

                                                 

打者であれば、打率、打点、本塁打。                                                                                                                   

投手であれば、勝敗(勝率)、防御率、奪三振。                              

                                                                                      

こういったタイトルが100数十年もの間、何の疑いも無しに”主要タイトル”として重要視され続けてきた。                                           

                                                   

                                        

ところが1970年代にビル・ジェームスという男がこれらのタイトルの価値、に疑問を投げかけたのである。                                              

                                                   

例えば首位打者、打点王、最多勝投手などは高額の年俸を稼ぎ、スタープレーヤーとして君臨してきたが、実際はどれだけチームの勝利に貢献してきたのかと。                    

                                                 

                 

裏を返せばこれらの主要タイトルとは無縁でも、チームの勝利に貢献している選手はいるのではないかということ(この辺が後に話す『マネーボール』のポイントとなる)。                 

                                                  

                    

そもそも野球というスポーツは個人競技ではなく、団体競技であり、チームの勝利を目的としているスポーツである。                                                        

                                                                 

当然チームが勝つためには、相手より1点でも多く得点を取るべきであり、打者には「得点産生能力」が求められる。(投手でいえばその逆。)                           

                                                  

当時無名のライター、野球史研究家であったジェームスは、「産生得点(Runs Created)」の概念を提唱し、打力の指標は旧来の打率、打点、本塁打という数字ではなく、「得点を産生する能力で選手を評価するべきだ」と主張した。                          

                                             

そこで「産生得点(RC)」の計測法を考案したのである(計算式は非常に複雑かつ、あまり意味がないものなので、ウィキを参照頂きたい)。                              

                                                

これこそがセイバーメトリクスの誕生であり、旧来の指標に囚われることなく、野球のデータを客観的・統計学的観点から捉え、選手の価値や戦略の正当性を分析するというものである。         

                                                 

尚、”セイバーメトリクス”とは、アメリカ野球学会の略称SABR(Society for American Baseball Research)と測定基準(metrics)を組み合わせた造語である。                        

                                                   

またセイバーメトリクスでは、打点、得点圏打率、防御率など、”たまたま”そのシチュエーションに出くわしただけというような数値も否定し、さらに「勝負強さ」や「采配の妙」というような、数値化できない能力は無視。                                

                                                

さらに、バントや盗塁といった戦略をも真っ向から否定したことも、当時は目からウロコであった。                            

                                                 

ところがこう言った主張は、現場の監督、コーチ、スカウトなどには到底受け入れられず(彼らの仕事を半ば否定・無視することになるから)、当時は単なる野球オタクの戯言として、半ば冷やかに受け取られていたらしいが、一部のマニアックなファンや、ESPN誌なんかに取り上げられるようになり、80年代後半にはセイバーメトリクスの認知度が徐々に広まっていった。

                                                   

しかし彼の究極の目的は、セイバーメトリクスをファンやメディアの批評のツールとするだけでなく、実際に球団運営に反映させることだった。                            

                                                

セイバーメトリクスがその後、90年代後半から00年代にかけて、実際に球界の常識を覆していくほど影響力を持つとは、この時はまだ誰も知る由もなかった。。。                        

続く。

2010年1月12日火曜日

野球進化論 (はじめに)

ココを時々覗いてくださっているとしたら、比較的野球というスポーツには興味がある方だと思う。                 

                                                               

               

では、仮に野球ペーパーテストみたいなものがあったとして(50点満点)、下記の設問の一部、もしくは全部に的確にお答えできる方はどれくらいいらっしゃるだろうか。                                  

                                                            

                      

① 「OPS」、「WHIP」とは何か。(各10点)                              

② 「セイバーメトリクス」とは何か。”ビックボール”、”スモールボール”のキーワードを絡めて述べよ。(10点)                 

③ 著書『マネーボール』の功績と、矛盾点を指摘せよ。(20点)                                

                                                            

                          

最近良く目にする、横文字の暗号のように聞こえるこれらの言葉の意味なんてわからず、恐らく一年前の僕なら0点であった。                            

                                                       

                                                

しかし、徐々に勉強していった中で、分かってきたこと、知っておいた方がいいこと、知らなければならないことを、出来るだけ分かりやすく説明していきたいと思う。                             

                                                         

                              

恐らく今までとは違った角度から野球を眺め、プレーにも、観戦にも、もう少し幅が出来て、面白くなるかもしれない。 

                                                         

                                             

ということで例によってマイペースに、今後複数回に分けてハナシを進めていくつもりである。

2010年1月6日水曜日

伝説の巨人

あのランディ・ジョンソンがついに引退するらしい。




本国の米国だけにとどまらず、日本にもそんなNewsが飛び込んできた。





80年代、90年代、00年代にまたがってメジャーリーグで活躍した巨人は、まだメジャーリーグが日本人にとって遠い、憧れの存在だった頃の、怪物的象徴の1であった。






























2メートルを超える長身から、サイド気味に、バッターに向かって倒れこむようにして、160キロを超えるファストボールと、150キロ前後の高速スライダーをテンポ良く次々投げ込む。











こんな映像を見て、やっぱメジャーリーガーはすげーな。と憧れていた同年代は多いだろう。少なくともデカはそうだった。





(身長188cmのポサダが子供に見える。)






























最多勝や最多奪三振のタイトルはもちろん、サイ・ヤング賞を両リーグで通算5度も獲得、ワールドチャンピオン、ワールドシリーズMVP、完全試合達成など、誰しもが欲しがる栄光を軒並み掴んだ。






通算勝利数は303勝で、投手の分業制、球数制限が確立されてしまった今、彼を最後に300勝投手は今後現れないのではと、米国では言われている。





300勝もすごいが、166敗という、負け数の少なさは特筆である。





若い時はノーコンで、三振か四球かのピッチングを繰り返していたが、師匠であるノーラン・ライアンと出会い、その才能が一気に開花した。ちなみにライアンは324勝しているが、292敗を喫している。





長らく持病の腰痛に苦しみながらも、徹底した体調管理で46歳まで現役を続けた。長いキャリアでみると、意外と遅咲きの苦労人でもあるのだ。





また、薬物使用のスキャンダルもなく、殿堂入り投票の際には、南カリフォルニア大学時代の同級生、マーク・マグワイアとは違った結果になるに違いない。





今は無きエクスポズから→マリナーズ→アストロズ→ダイヤモンドバックス→ヤンキース→ダイヤモンドバックス→ジャイアンツと渡り歩いたが、キャリアで最も長い年月を過ごしたマリナーズでの永久決番認定にも注目が集まる。いわずもがな、現在イチローが使用している「51」であるが。





もちろん複数球団にまたがっての決番認定も可能性が大きく、マリナーズ以外では、カート・シリングと共に初めてワールドチャンピオンに導いたダイヤモンドバックスが可能性大だろう。



























また、”記録”だけではなく、ファストボールで鳩を即死させ、動物愛護団体から訴えられるなど、まさに”記憶”にも残る伝説の男が、また一人球界を去ると聞いて、寂しい思いをしたのは僕だけではないだろう。











しかし、、、最も驚くべき点は、ルーキー時代から全く顔が変わっていない点である。左上のエクスポズ時代から、右下のジャイアンツ時代まで22年の月日が流れているのだが。(個人的には、40歳で入団したはずのヤンキース時代の写真が一番若く見える。)
























2010年1月4日月曜日

謹賀新年

明けましておめでとうございます。







今年も細々と、よりマニアックに更新し続けていきますので、何卒ご贔屓に。




ネタは溜まってます。。。




それでは、本年も宜しくお願いします。