2012年11月28日水曜日

独断と偏見で選ぶボールパーク 『ランク圏外/東地区編』

圏外/シティ・フィールド 
 - ホーム :ニューヨーク・メッツ
 - オープン:2009年
 - デザイン:Populous (旧HOK Sport)
 - 収容人数:41,922人




そもそも金融バブルの真っただ中に新球場プロジェクトをぶち上げ、羽振りよくシティバンクがネーミングライツを取得したまでは良かったが、開場半年前に起きたリーマンショックがそもそもケチのつき始め。シティに多額の公的資金が注入されると、「納税者フィールドにしろよ!」という辛辣な世論が飛び交い、挙句の果てにはオーナーが巨額詐欺事件に巻き込まれるというトラブル。大枚をはたいて獲得した大物も次々と不良債権化していき、かくして新球場バブルもあっけなく崩壊した。

エクステリアはかつてブルックリンに存在した、「エベッツ・フィールド」を現代の世に甦らせた秀作で、コレに関しては正直拍手を送らざるを得ない。ただし場内の演出は過度にブルックリン・ドジャースへのトリビュートが意識されているけど、エベッツしかり、ジャッキー・ロビンソンしかり、そもそもあなたの球団じゃないでしょ?と突っ込みたくなる(ドジャースとジャイアンツの西海岸移転がメッツ球団誕生のきっかけとなったのは間違いないのだが)。

フィールドやフェンス形状も必要以上に奇をてらったデザインが施されており、はっきり言ってクドい。先代のシェイ・スタジアムの方が長閑でメッツらしかったと言ったら可哀そうだろうか。場内で最も賑わっているのはセンター後方にあるNYハンバーガーの人気店「SHACK SHACK」という皮肉。近隣のラ・ガーディアを発着する飛行機は相変わらずノイジーで、コレはシェイ時代と変わらない。




圏外/シチズンズバンク・パーク
 - ホーム :フィラデルフィア・フィリーズ
 - オープン:2004年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:43,651人




古都フィラデルフィアの風情をそのまま生かしたネオクラシック調デザイン、美しい天然芝、カクテル光線、マスコットのフィリー・ファナティックが、全米一ブーイングが執拗と言われているフィリーズファンを盛り上げ、コンコースからは地元名物「フィリー・チーズステーキ」の香ばしい匂いが充満する。

完全に期待通りの空間なハズなのになぜだろう。。。球界関係者の間でも屈指の好球場と専ら評判だが、個人的には期待が大きすぎたのか、氾濫するHOK作品に飽きてしまったのか、驚くほど良いと感じられなかった球場。コンコースが異様にチープに感じてしまったんだな。ユニークな点と言えば、試合中にダイヤモンドクラブのレストラン内からダグアウト裏のバッティングゲージが覗けるシカケになっており、試合そっちのけでトーミの打撃練習にくぎ付けになっていたわ。

お目当てのチーズステーキも、球場の売店で作り置かれているものはパンが固いので性に合わず、ダウンタウンに帰る途中の2大有名店、「PAT'S」か「GENO's」でテイクアウトした方がおいしいで。ちなみに24時間営業なんで試合後でもご安心を。




圏外/ロジャース・センター
 - ホーム :トロント・ブルージェイズ
 - オープン:1989年
 - デザイン:Robbie Young + Wright
 - 収容人数:49,260人




世界初の開閉式球場として、球界は元より建築業界をも震撼させた(らしい)ユニーク物件。開場当時は1992-93年の2年連続ワールドチャンピオンなど、ブルージェイズの好成績と共に観客動員も絶好調だった。以降、開閉式ドームのノウハウは福岡ドーム等に脈々と受け継がれていく。ただし建造物として一見の価値はあるものの、空前のネオクラッシックブーム前夜に建てられた為、当時最新鋭のデザインも20数年経った今にはちと古く感じられてしまう所はやむを得ない。そういえば松井秀喜がメジャーデビューを飾ったのもこの球場。

元々は「スカイ・ドーム」という愛称で親しまれていたが、2004年に通信大手のロジャース社に球場が買収されるとともに、名称も「ロジャース・センター」に改名。センターの綴りが”Center”ではなく、敢えて”Centre”と言うところがカナダらしくブリティッシュ流。球場にはホテルが併設されており、現役時代にロベルト・アロマーが住んでいた事で有名。試合中、窓際で淫らな行為をすると即退場になるので要注意。近年天然芝に貼り替えられるという噂があるが、真相はいかに!?




圏外/トロピカーナ・フィールド
 - ホーム :タンパベイ・レイズ
 - オープン:1990年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:42,735人




ココも密かなるHOK作品だが(ブレイク前の)、元々は野球専用球場として建てられたわけではなく、当初はアリーナフットボールや、アイスホッケー場として利用されていた。恐らくメジャーリーグで最後となるであろう人工芝&密封式ドーム球場である。90年代初頭からマリナーズ、ホワイトソックス、ジャイアンツの球団誘致にことごとく失敗し、98年のエクスパンションでようやくデビルレイズ(現レイズ)のフランチャイズとして落ち着いたのは、開場から8年後のこと。

プレーオフでも空席が目立つのは一概に球場のせいだけとは言えないが、ココを脱出することによって何かが変わることは間違いなさそうだ。数年前にはセントピーターズバーグのマリーナ沿いに新球場の建設予定と設計図まで出来あがってたのに、いつのまにかプロジェクトはとん挫。

唯一この球場で面白いのは、内野の人工芝以外の部分にはきちんと本物の土を入れている点。人工芝球場のせめてものエクスキューズを大いに感じる。ナゴヤドームや横浜スタジアムのようなオレンジ色の人工芝を内野に敷いた「ボールパーク風」の安っぽい演出よりはまだマシか。

2012年11月26日月曜日

独断と偏見で選ぶボールパーク 『ランク圏外/中地区編』

圏外/USセルラー・フィールド
 - ホーム :シカゴ・ホワイトソックス
 - オープン:1991年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:40,615人




今では偉そうにアレコレ語っている自分だが、初めてメジャーリーグに触れたのはたった8年前のココだった。濃い緑の天然芝の美しさと、その夏らしい薫りに酔いしれ、結果的にあの時の感動が僕の人生の一部を変えてしまったと言っても過言ではない。

球場自体はオリオール・パークの1年前に開場した、HOKの「プロトタイプ的作品」だが、まだネオクラシックの風情は感じられない。ただし、先代のコミスキー・パークから「風車式爆音スコアボード」が踏襲されるなど、「やりたかったこと」は大いに感じられる。

個人的に好きなのはレフト外野コンコースにあるシャワー。ただシャワーの蛇口から水が出るだけなのだが、夏場にファンが水浴びするためにと、旧オーナーのビル・ベックにより考案されたもので、これも旧コミスキー・パークより移設されてきている(球界の風雲児ことベックの功績についてはいつか語りたい)。

今回のランキングからは泣く泣く外したが、永遠に我が青春のボールパークであることは間違いない。




圏外/プログレッシブ・フィールド
 - ホーム :クリーブランド・インディアンス
 - オープン:1994年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:43,429人




不況や治安悪化から街を立ち直らせるべく、「クリーブランド復興計画」の一環としてダウンタウンの一等地に建てられた模範的な「箱庭的ボールパーク」。かつて鉄鋼業で繁栄したクリーブランドらしく、白い鉄骨がむき出したままのユニークな外観(そういえば造船業で財をなしたスタインブレナーもこの街出身)。

開場翌年の95年から足掛け6シーズンにかけ、455試合連続チケットSOLD OUTの金字塔を樹立した(その後ボストンのフェンウェイパークに塗り替えられた)。コッテコテのネオクラシックスタイルのオリオール・パークで一世を風靡したHOKが、たった2年後に全く毛色の異なるこの作品を世に送り出した事に、多芸というか、引き出しの多さというか、素直に敬服する。

従来は当たり前のようにセンターに鎮座していたスコアボード類を、景観を意識して端っこに寄せる手法や、歯ブラシ型の縦置き照明などは以降の球場デザインに大きな影響を与えた。間違いなくメジャーでも5本の指に入るであろう好球場だけに、ココのランク入りは正直最後の最後まで悩んだ。が、いかんせんダウンタウンの治安と言うか雰囲気が悪過ぎるため(怖すぎるため)断念。いやしかし、球場自体は本当に素晴らしい!!




圏外/コメリカ・パーク
 - ホーム :デトロイト・タイガース
 - オープン:2000年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:40,120人




工業地帯だったデトロイトに倣えと、大阪を地元とする阪神が球団名をパクったのは有名なハナシ。”虎”というと東洋では「黄色」と「黒」のイメージだが、”タイガー”というと西洋では「オレンジ」と「ネイビー」のイメージだそうだ。その昔、タイガースのユニフォームの靴下の色がオレンジとネイビーの縞柄だったから付けられたニックネーム。

球場内にはメリーゴーランドや観覧車があり、ボールパークらしい楽しさを提供してくれるのは有難いが、メリーゴーランドが馬では無く、タイガーなのがポイント。これが結構リアルで怖いので子連れの親御さんは気をつけよう。

ココの球場のフィールドは地下1階レベルに掘られて設計されており、メインコンコースがストリートレベルにあるというユニークな造り。日比谷野外音楽堂と同じような造りと言えば分るだろうか?これはアリゾナのグッドイヤーボールパーク(レッズとインディアンスのスプリングトレーニングサイト)などにも採用されている手法。自動車産業ややブラックミュージックで一時代を築いた「モータウン」として世界的にも有名だが、とにかくこの街も治安悪過ぎ、怖すぎ。




圏外/クアーズ・フィールド
 - ホーム :コロラド・ロッキーズ
 - オープン:1995年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:50,398人




ご存じ「マイル・ハイ・スタジアム」。海抜0メートル地点より9%も打球が飛ぶと言われている、メジャーきっての打者天国。昨今メジャーリーグでも乱発気味のノーヒッターだが、ココでの達成者はいまだに96年の野茂秀雄ただ一人だけ。

球場内の座席の色は基本ダークグリーンで統一されているが、アッパーデック3階席の20列目が丁度海抜1マイル(1600m)に当たるため、そのラインだけ座席がチームカラーのパープルに塗られている。レンガと鉄骨を組み合わせた典型的なHOKの初期型ネオクラシック作品で、開場当時はそれなりに評価されていたようだが、これだけHOK作品が飽和状態となった今では特にヒネリも工夫も無いように見えてしまう不幸。ただ、デンバーのような中級都市に5万人を超える大箱は今となっては珍しく、こんなところに90年代という時代を感じてしまう。




圏外/ミラー・パーク
 - ホーム :ミルウォーキー・ブルワーズ
 - オープン:2001年
 - デザイン:HKS
 - 収容人数:41,900人




春先、秋口のミルウォーキーの過酷な寒さをしのぐ為、開閉式天然芝球場という形式を採用しているが、ココの屋根は扇子を真ん中から割る用に開くメカニズムを採用しており、世界でも稀(というか他に知らない)。建設工事中にはクレーン倒壊事故により2名の作業員が亡くなると言う悲劇にも見舞われたが、予定より1年遅れで開場した。

ブルワーズの選手がホームランを打つと、マスコットのバーニー・ブルワーが滑り台から滑り降りてくるパフォーマンスが有名。というか唯一の彼の仕事と言っていい。かつてミルウォーキーにはドイツ系の移民が大量に流入した為、ビール製造のメッカとなったそうだ。へ~。

あとミルウォーキーと言えばハーレーダビッドソンが有名で、投手交代の際にはスポンサーでもあるハーレーのバイクが球場内を一周するというパフォーマンスが旧スタジアム時代からのお決まり。

2012年11月16日金曜日

独断と偏見で選ぶボールパーク 『ランク圏外/西地区編』

圏外/オードットコー・コロシアム
 - ホーム :オークランド・アスレチックス
 - オープン:1966年
 - デザイン:Skidmore, Owings and Merrill
 - 収容人数:35,067人




ご存じ”メジャー最低の球場”。元々の名称「オークランド・(アラメダ・カウンティ)コロシアム」から、1998年のネーミングライツ販売以降、「ネットワークアソシエイツ・コロシアム」、「マカフィー・コロシアム」、「オーバーストックドットコム・コロシアム」、「オードットコー・コロシアム」と落ち着かない。

球場周辺のコンビニやガソリンスタンドのキャッシャーは鉄格子で囲われており、この街に来た事さえ後悔させる。あまりの治安の悪さに客が寄りつかないため、近年本拠地のフリーモントへの移転を試みており、「シスコ・フィールド」なる新球場の設計図まで出来てたのに計画はとん挫中。

球団がケチな為か、球場スタッフの数が極端に少なく、大概どの席も座り放題。ただ、敢えて2階席に陣取りカリフォルニアの夕暮れをゆっくり拝むのが自分流。色んな意味で哀愁が漂ってくる。




圏外/ドジャー・スタジアム
 - ホーム :ロサンゼルス・ドジャース
 - オープン:1962年
 - デザイン:Praeger-Kavanaugh-Waterbury
 - 収容人数:56,000人




かつては「全米一美しい球場」と讃えられた時期もあったが、気づけばボストンのフェンウェイ、シカゴのリグリーについでメジャーリーグで3番目に古い現役球場となってしまった。球場改修は度々行われているものの、辛気臭さをぬぐえないまま老いていく印象を受ける。来季よりオーナー陣が一新されることで、今後の方向性に変化が起こる可能性があり、注目したい。

2011年の開幕戦では駐車場でファンが暴行を受け、意識不明の重体となる悲しい事件が起こったが、このような悲劇が二度と起こらないよう警備も徹底して頂きたいところ。名門・人気チームにしてはチームストアがショボい点も残念。最近マイナーチームでももっと充実してまっせ!とゲキを入れたくなる。

初心者にはお薦めしないが、チケットは駐車場をウロついてるダフ屋と交渉すると、意外な出物にあり付ける可能性大。




圏外/レンジャース・ボールパーク・イン・アーリントン
 - ホーム :テキサス・レンジャース
 - オープン:1994年
 - デザイン:David M. Schwarz Architectural Services, Inc.
 - 収容人数:48,194人




ココもネオクラッシック型ボールパークの典型だが、シアトルのセーフコ同様HOK作品では無い。近年には珍しくなった大箱球場で、何もかもがデカいテキサスならでは!と言いたいところだが、意外に場内は圧迫感がある。

外野スタンドはレフト、ライトそれぞれ2-3階席まであり、センター後方には球団事務所や貸しオフィスが入居しているビルがそびえたっている。どうせ周りに何にもないんだから、個人的にはもっと開放感のあるデザインが良かったのだが。

あと、何故か場内売店のアルコール販売のレギュレーションが異常に厳しく、在米IDを所持していないと(日本国籍パスポートは通用しない)この歳でビールの販売を断られるケースが多々ある。そういう時はスタンドを練り歩いてる売り子の兄ちゃんにチップを多めに渡して融通してもらおう。

来季はネーミングライツを売って球場名が変わってるかも。




圏外/チェース・フィールド
 - ホーム :アリゾナ・ダイアモンドバックス
 - オープン:1998年
 - デザイン:Ellerbe Becket
 - 収容人数:48,633人





世界初の開閉式天然芝球場。通常であれば悪天候や寒さからプレイヤーやファンを守るため球場には屋根が設置されるが、ココは真逆。修羅の如く照りつけるアリゾナの太陽から身を守るため、晴天時にクローズされるケースがほとんど。

右中間にはマイナー球場のアイディアをそっくりパクったプール&ジャグジーが設置されており、美女が水着でWOW~というケースもしばしば。シャイな日本人には敬遠されかねない商品だが、未だにソールドアウトを続けている人気企画である。

ただしアリゾナに行く機会があれば、個人的にはココよりもフェニックス近郊のユニークなボールパーク達をチェックしてもらいたい。スコッツデール、キャメルバック、ピオリア、サプライズ、グッドイヤーなど、スプリングトレーニングサイトとしても有名な施設が半径数十キロ以内にゴロゴロ転がっているので、車を借りてボールパークお遍路の旅に出かけられてはいかがだろうか。あなた好みのマイナー球場が見つかるハズよ。




圏外/ミニッツメイド・パーク
 - ホーム :ヒューストン・アストロズ
 - オープン:2000年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:40,981人




”世界初のドーム球場”として人類に多大なるインパクトを与えた先代のアストロ・ドームと比べると、どうしてもかなり影が薄い印象。ココも開閉式の屋根を採用しているが、ほぼ同級生のセーフコと比べると、ハコ庭的圧迫感は否めない。

センター後方のフィールド内に「タルズ・ヒル」と呼ばれる丘があり、かつてシンシナティの本拠地であったクロスリー・フィールドの形状を模したらしい。またかつてのヤンキー・スタジアムやタイガー・スタジアムを模して、フラッグポールが何とフィールド内に立てられている。嗜好を凝らすのは結構だが、当然プレーの邪魔になることは請け合いで、選手からのクレームにより、来季から撤去されることになっている。

また球団自体もオーナーの交代を経て、来季からはリーグを変えア・リーグ西地区に移転し、マリナーズとビリ争いを繰り広げる予定。




圏外/ペトコ・パーク
 - ホーム :サンディエゴ・パドレス
 - オープン:2004年
 - デザイン:HOK Sport(現Populous)
 - 収容人数:42,445人





ペトコと言えば、第1回WBC準決勝で韓国のキム・ビョンヒョンから、代打・福留が右中間に放った特大ホームランが印象的。ただ通常はメジャー30球場中でも屈指の”打者墓場”として有名。

ココも例によってHOKの中期作品で、ネオクラシックの流れを大いに汲んでいるものの、白い鉄骨やネイビーの座席を採用し、サンディエゴらしいマリンテイストを意識した雰囲気。レフトにはウェスタン・メタル・サプライ社の築100年にもなるビルディングをそのまま利用し、さながらオリオール・パークの二番煎じ的な要素も見受けられる。外野にはメジャーでは珍しい芝生席と、ビーチをイメージした砂場が広がっており、カリフォルニアの解放感をまんま表現した好球場。

そう、確かに良い球場なのだが個人的な思い入れも特に無く、今回惜しくもランク外とさせて頂いた。サンディエゴ・シーワールドでシャチには挨拶しておこう。

2012年11月13日火曜日

独断と偏見で選ぶボールパーク・ベスト10 『第6位』

第6位/セーフコ・フィールド
 - ホーム :シアトル・マリナーズ
 - オープン:1999年
 - デザイン:NBBJ
 - 収容人数:47,860人







時は1995年、マリナーズの選手たちはロッカールームでマイアミの住宅情報誌に夢中になっていた。チームの人気低迷に輪をかけて、本拠地キングドームの老朽化が進み、シアトルの街に新球場が建設される見込みが無ければ、球団のフロリダ移転がいよいよ現実味を帯びていたからだ。


しかしながら、新球場の建設費の一部は市民への増税により賄われなければならず、世論を味方に付ける為にも、チームの奮起がこの時ほど望まれていた事は無かった。


このシーズンのマリナーズは一時首位エンゼルスから13ゲーム離されていたものの、シーズン終盤に奇跡の大逆転劇を演じ、球団史上初の地区優勝・プレーオフ進出を果たしたのだ。


特にディビジョンシリーズでヤンキース相手に2勝2敗で並んだ最終第5戦、延長11回裏にエドガー・マルティネスがレフト線に放ったタイムリーツーベースヒットは、「The Double」と呼ばれており、サヨナラのホームに滑り込んだまま、チームメイトに揉みくちゃにされた若き日のケン・グリフィー・ジュニアの弾ける笑顔と共に、今でもシアトルのベースボールファンの胸に強烈に焼き付いている。


結果的にこの年、マリナーズはリーグチャンピオンシップシリーズで敗退したものの、この活躍がきっかけとなり新球場建設へ大きなウネりとなっていった。球団社長のアームストロングの言葉を借りれば、ベーブルースがヤンキー・スタジアムを建てたのなら、セーフコ・フィールドを建てたのはケン・グリフィー・ジュニアなのである。


こうして世紀の爆破解体ショーによって消滅した先代のキングドームの南側に、新球場セーフコ・フィールドは世界2番目の「開閉式天然芝球場」として誕生した。


世界中にいくつか存在する他の開閉式球場は、「ドーム(天井)が開く」という感覚だが、ココの場合は「屋外球場に屋根が被さる」といった表現の方が的確である。屋根は晴天時には球場後方の「BNSF鉄道」のレールの上に被せられており、悪天候時にのみ屋根がスライドしてフィールド上に被さる仕組みになっている。


試合中継中にバオ~ンという汽笛が鳴り響くのがお馴染みだが、あれはこの線路を行き来する貨物列車の合図なのである。


ココも例によってレンガと鉄骨を組み合わせたエクステリアや、敢えて手動式のスコアボードを採用するなど、当時の流行『ネオクラシック・スタイル』を地で行くコンセプトとなっているが、意外にもHOKの作品では無い。


スタンドは1階、2階、スイートレベル、3階とシアトルのマーケット規模感から言ったら少々大き目に感じるが、開場当時は年間350万人以上集客するメジャー屈指の人気球場だった。が、近年はチームの低迷と共に観客動員も200万人そこそこと低迷を強いられている。


スイートレベルのど真ん中に鎮座する”オーナーズスイート”の壁には山内溥オーナーの肖像写真が飾られているが、ご本人は一度も球場に足を運んだことは無いそうだ。


さて、シアトルといえばコーヒーが有名だが、実はマイクロブリュワリーの宝庫でもある。球場内でも『Mack & Jack』、『Red Hook』、『Fat Tire』といった地元産ビールをドラフトで楽しめるカウンターがあるので、ここはありふれたバドやクアーズではなく、レアなブランドを手に観戦されたい。


ツマミにはコンコース内売店『Grounders』の "World Famous" Garlic Friesが最適である。ガーリックと油でギトギトまみれたフレンチフライがついついビールを進めてしまうので要注意。また、ダウンタウンにあるクラムチャウダーの老舗『Ivar's』も球場内に出店しており、春先、秋口の肌寒い日には特にお薦め。


個人的には目をつぶっても歩けるくらい通い詰めた球場だけあって、正直6位と言うポジションに友情票は否めないが、シアトルの街や人々同様に非常にフレンドリーで居心地の良い空間であることは間違いない。


3塁側2階席後方にはテラスでくつろげるオープンスペースが広がっているが、そこから望むシアトルダウンタウンのスカイライン越しに沈む夕日の美しさは特筆。エリオット湾から微かに薫ってくる潮風も手伝って実にさわやかな気持ちになれるのだ。


ご存じの通りチームは10年以上の間低迷期に入っているが、願わくば開場当時の大熱狂をいつかまたココで経験してみたいものである。その時には多少のベテランファンとなった自分が感慨にふけることが出来るのではと、淡い夢があるのである。